紅き天
「お帰りですか。」
佐吉の家を訪ねると、別に驚いた風もなく、佐吉は中に招き入れた。
軽薄な笑みを張りつけた佐吉を警戒する。
どうしても油断出来ない相手だ。
いざとなったら殺すことも出来るが、それでは当主としての信頼を失うだろう。
厄介なものだった。
「で、いきなり消えてどこへ行っていたんです?」
ドサッと座りながら佐吉は訊ねた。
疾風は返答に詰まった。
静乃のことを言うべきか。
いや、こんな奴に言うのは駄目だ。
そうこう悩んでいるうちに佐吉が話題を変えた。
「そういや、木更津の当主はどうなった?
殺ったか?」
「ああ。」
仏頂面で答える。
触れて欲しくない話題だ。
「ふーん、そうか。
弱かったか?
大分、年とってたからな。」
「そんなことない。」
すぐさま疾風は言い返した。
お前なんかよりよっぽど強ぇよ。
これは睨みに留めておく。