紅き天
「消毒液だよ。」



傷にしみる得体の知れない液体から逃げようともがく静乃を膝で挟むように固定し、疾風は消毒を続行する。



「幸い威嚇で斬られただけだから傷は浅い。
…それでも女斬るか普通。」



最後に付け足された言葉になんとも言えない怒りが滲み出ていた。



「ゴメンね。」


「お前が悪いんじゃない。」



言いながら、疾風は布を手に取った。



そしてそれをくるくると器用に静乃の肩口に巻き付けていった。



「何があった?」



グッと布の端を巻いた布の隙間に入れ込み、結びつけながら疾風は訊ねた。



「なんか、ご飯食べてたら裏口から音がして。
何か落ちたかな〜とか思って見に行ったら戸が倒れてて。
ハッとしたら男の人達が襲いかかってきて…。」



その時のことを鮮明に思い出した静乃はギュッと目をつぶって頭を抱えた。



だが閉じた瞼の裏に男達が浮かび、すぐまた目を開いた。



「どうしよう、怖い。」



今まで、こんな恐怖を感じたことはない。



いつも静乃は相手に触れられることなく終わらせていたし、あれだけの人数に、しかも男に押さえこまれたことはなかった。



「許せねぇ。
女一人に集中攻撃かよ。」



疾風は口汚く罵り、側にあった木箱を投げ飛ばした。



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