紅き天
「あんたなんかに当主の座は勿体ねぇ。
俺がなった方がずっといい。」



自分も妙や仲間内にそう思われているんだろうか。



静乃は不安になって目を伏せた。



「俺達二人を消すつもりか?」


「勿論。
こんだけ喋って生かすわけねぇだろ。」



佐吉はクイッと顎をしゃくって、疾風と静乃を壁際に追い立てた。


今さっきまでならいた通行人はもう一人もいない。



静乃は疾風の背中に庇われながら、必死で助けてと願った。



丸腰に疾風に出来る反撃はたかが知れている。



静乃はまだ恐怖から立ち直れず、まともな戦力になりそうにない。



今まで、追い込まれたことのない静乃にはどうしていいかわからないのだ。



「どうしよう…。」


「お前、こんなピンチなかったのかよ、殺し屋のくせに。」


「ないわよ。
しかも丸腰だなんて!」


「ったく、優秀だな。」



無駄口を叩いている間にも敵はジリジリと近寄ってきている。



「疾風ぇ…。」


「何だ?」


「大好き。」


「知ってる。」



疾風はフッと笑って後ろ手に静乃の手をギュッと握った。



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