紅き天
「余の勝ちだ。」



静乃の腕が引っ張られた。



「嫌!」



思いっきり静乃は家光を払い、疾風の傍にしゃがんだ。



「どうして?
何があったの?」



疾風は力なく首を振る。



自分の体がどうなっているのか、わからない。



どうして負けているのか、わからない。



静乃は泣きそうな顔で何度も嫌と呟いた。



「気分悪い?
どこか痛い?」


「く、首…。」



急いで静乃は疾風の頭を持ち上げ、首を覗き込んだ。



「あ…やだ。」



震える声で、静乃は言った。



「何か刺さってる。
毒針かもしれない。」



静乃は疾風の体を起こし、首筋に唇を当て、中の毒を吸い出した。



首にあてがわれている唇が、何だかくすぐったかった。



「静乃、それは麻酔針です!」



遠くで妙の声がした。



静乃が土手を見上げると、照日を羽交い締めにした妙が立っていた。



「照日が疾風に向かって吹いたのです。
何も心配することはありません。
しばらくすれば、体の感覚は戻り、痺れも取れます。」


「よかったぁ。」



静乃は弱々しく呟き、疾風の頭を膝に乗せた。



「疾風、ゆっくり休んで。
私、ずっとついてるから。」


「こ……で?」


「ううん、妙さんに手伝ってもらって家まで運ぶ。」



やっと疾風は安心して笑った。



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