紅き天
静乃は黙って疾風を見ている。



口を挟む様子がなかったので疾風は先を続けた。



「俺は、決めた。
市松は解散。
父さんは怒るかもだけど、当主は俺だ。」


「そう…。」



それっきり、静乃は黙った。



「俺達の側にも、剣術、体術、心理術を悪用して好き勝手やっていく輩が現れないとは限らないし。
俺らの先祖の名前は殺しの業界じゃなくて、商売で残していけばいいと思う。
実際、繁盛してるだろ、俺らの店。」


「妙さんと話してくる。」



いきなり静乃は立ち上がり、疾風を見もせず出て行った。



…言い過ぎたかな?



少々不安になりながら、疾風はご飯に手をつけた。



独りで食べる食事は旨くない。



今更ながら、切り出すタイミングを間違えたなと後悔する。



「父さん…。」



今、この場にいたらどう思うんだろう。



自分達の命を懸けて守ったものを、たった数ヶ月で潰されると知ったら?





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