紅き天
まったく当主らしいことはしていないが、名残惜しいような気がする。



仲間に命令のことを知らせに走ったことが、記憶に濃いせいかもしれなかった。



「私、普通の女の子だね。」



やっと。



そう、やっと仕事のことで束縛されず、出かけられる。



急に呼び戻されたり、掟やぶりで罰せられることもない。



そして、家柄なんか気にする必要はないのだ。



「静乃。」


「何?」


「俺も普通の男だ。」


「そうだね。」



静乃は私達、どこにでもいる子供だね、と笑った。



今まで特別だと僻んだり、得意になったりしたが、これからはない。



そう思うと寂しさが勝った。



疾風は頭を振り、静乃を呼び寄せた。



「何?」



膝立ちで近寄ってきた静乃を引っ張り、抱く。 



「今、片付いたって言うのか?」


「言うよ。」



静乃ももうわかっているようだ。



おとなしくしている。



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