紅き天
「静乃、早う来なさい。」



基子の声に現実に呼び戻され、静乃は歩調を速めた。



「はい。」


「何か悩みが?」


「いえ。」



静乃が笑って首を振ると、基子は安心したように笑った。



「縁談の事、聞いたであろう?」


「う…ん。」



口籠もる静乃を見て、もう一度基子は優しく問い掛けた。



「悩み事が?」



恋か?と、核心を突かれ、静乃は詰まった。



「お前は、自由な結婚は諦めた方がいいぞえ?」


「わかってる。」


「私も同じじゃ。」



哀しげな母を、急いで振り返った。



「母様も?」


「そう。」



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