紅き天
遠い、優しい目をして、基子は言った。



「私には好きな男がいた。」



結婚も話に出ていたという。



「だが、伝蔵との縁談が持ち上がった。
伝蔵は殺し屋の跡取りで、私は兄が継ぐ事になっていた。
双方に損はなかった。」



それで、基子は嫁いだのか。



「私は、無理矢理にここへ来たようなものだ。」



だから、一人しか産まないと宣言していた子供が女だった時、自分よりも悲しい運命だと泣いたという。



「お前は、きっと木更津に加担しているどこかの組に嫁ぐだろう。」



わかっている。



でも、もしかしたらと希望は捨てきれていなかった。



「でも、静乃、私はお前が嫌なのならば、とことん伝蔵に歯向かう覚悟でおる。
お前は我慢なんぞしなくとも良いぞ。」



優しい言葉に泣きそうになる。



「はい。」



言って、静乃は立ち上がった。



「また後で会おう。」



母もわかっているのか、頷いた。






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