紅き天
部屋に戻った静乃は窓を開け、斜向かいの疾風の店を眺めた。



疾風は出入りしている客の話しかけ、笑顔を見せている。



私にもその笑顔を向けて欲しい。



いつからだろうか、そう思うようになったのは。



恋、なんて甘いものとは無縁だと、わかっている。



金で依頼を受けて、人の命を奪って生きる身の自分が、人並みに恋など。



もはや自分達は人であって人ではないのだ。



現に、仕事の時には感情を捨てる。



この間殺した男は、よく店に来てお菓子をくれていた顔馴染みだった。



顔を見せた時のあの男の表情…。



今も脳裏に焼きついて離れない。



『静乃、お前に殺されるのか。』



そういって、哀しげに笑った。



あの人は、悪いとわかっていて、息子のために強盗をしていた。



医者に法外な治療料を迫られていたのだ。








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