紅き天
「ここ。」
疾風が足を止めたのは、にぎわっている道から少し外れた茶屋だった。
「前から静乃と来ようと思ってた。」
ニッと笑う疾風を見上げ、静乃はただそう、とだけ呟いた。
道々、追っ手がついているのは気が付いていた。
…今日が疾風と自由に会える最後の日かもしれない。
これからは訓練が増やされるだろうし、年頃の静乃には見合い相手が出来るだろう。
先の事を考えると、静乃は毎回とてつもない不安に襲われるのだった。
「静乃?」
いつの間にか、疾風が静乃の顔を覗き込んでいた。
「どうした?」
心配そうに、目を覗き込む疾風に何でもないと返し、静乃は顔を上げた。
「ここ、おいしいの?」
「うちの客が教えてくれた。」
疾風はやっと笑顔になり、折っていた膝を伸ばして立った。