紅き天
「お前、もういい年だろう。」


「オヤジ臭く言うな。」



不機嫌にそう言い放ち、疾風は歩いて宗治の横を通り過ぎた。



「なんかお前人気でさあ。
同業者の娘が熱上げて、昨日俺んとこに来たんだよ。」


「断れよ。」



ため息混じりに疾風は草履を脱いだ。



「そう言うな。
会うだけでも会ってみたらどうだ?
相手の娘も仕事の事はよくわかってるらしいから、隠す事もねえし。
楽だろ、同業者だと。」


「好きでもない女と結婚する気にはなれないんでね。」



言って、疾風は土間を上がった。



疾風は上手く切ったつもりだったが、流石は野次馬宗治、一枚上手だった。



「そうだよな、うん。

…お前は静乃一筋だもんな。」



「てめえ、まさか言いふらしてんじゃないだろな。」


「親にむかっててめえってなんだ。」



わざとゆったりと薬草をいじる。





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