紅き天
苛立った疾風は乱暴に襖を閉め、調合場を去った。



「…ちょっといじりすぎたかな。」



ヒヒッと悪びれずに笑い、宗治は薬草をすり潰した。



でもな、疾風…。



ふっ、と宗治は手を止めた。



好きでもねえ女と結婚する羽目になるんだよ、俺達みたいな奴らは。



こんなの、殿様の政略結婚よりも黒い。



しかも、静乃が敵方の一人娘とあっちゃあ…。



思い出したように、宗治は手を動かし始めた。



俺ぁ静乃好きなんだけどな。



2人が普通の商人の子供同士で、純粋な結婚なら宗治はもろ手を挙げて歓迎する。



しかし、2人は…。



「ったく、面倒なご時世だぜ。」



独り呟き、宗治は調合作業に戻った。





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