紅き天
静乃はただ吹いただけだと思ったようだが、疾風は気付き、サッと宗治に蹴りを放った。



船漕ぎも静乃も気付かない間の一瞬の出来事。



宗治は顔色ひとつ変えず、指先で足を止めた。



チッと舌打ちして疾風が足を引っ込める。



「まだまだ蹴りが甘い。」



すれ違いざま、宗治は疾風に囁いた。





疾風は決して暗殺の修行を怠けていなかった。



師匠や祖父からも天才と褒められた。



なのに、40歳半ばを超えた中年の男に本気でかかっても掠り傷ひとつつけられない。



この悔しさは他人に味わわされた事がない。



父を尊敬すると共に、嫉妬も覚えるのだった。



「疾風?」



静乃に呼ばれ、疾風は宗治から離れ、静乃の隣に座った。














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