首筋、君の手が触れた。



古ぼけた駅だが汚くはない。

周りは花が植えられている。

なんと桜の木もある。

随分前に退職した、

駅長さんが植えたらしい。

その人は、今でいう、

ガーデニングが大好きで、

花を植えたのもその人らしい。

戦争で荒れ果てたその駅を、

少しでも格好よくしたくて、

戦争で不自由になった足を、

引きずりながらも、

せっせと世話をしたらしい。

今はもういないけれど、

駅員さんたちが、

その人の仕事を受け継いだ。

おかげで、この駅は、

花に囲まれた、

美しい駅となっている。

おまけに今は、

前述したように、春。

葉桜になりかけたそれが、

緑と薄紅の色合いを、

白い駅の壁をバックにして、

なんとも言えない美しさだ。


そこに、学生が、一人。

たたずんでいた。



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