パリの恋
前編 パリからアルルへ
ロイ・ウォルターは久しぶりに冬のパリを訪れていた。
ゆるやかなウェーブがかった金髪、緑色の瞳、上質だが控えめなデザインのコートを着て、使い慣れたエルメスのバッグを持ち、さっそうと歩く姿はパリの街が良く似合う。洗礼された優雅な身のこなしは、彼が上流階級の人間だと伺わせる。


ロイは鉛色の空を仰ぎながらパリの街を歩くのが好きだった。
パリの高級住宅地である16区に住む友人に会いにきたのと、ロイが任されている慈善事業を兼ねてやってきた。あまり1人で行動することは少ないが、今回は1人でゆっくりパリを満喫するつもりだった。

もうすぐクリスマスだ。夜になればパリの街全体がイルミネーションで美しく光り輝く。今年のクリスマスはパリで過ごすつもりだった。
ロイは普段乗らないメトロに乗ることにした。誰かと一緒だと大抵車で移動するので、たまに乗るメトロもまた楽しみの一つであった。

証明写真機の前を通り過ぎた時だった。

チャリーン・・・

小銭がロイの足元をかすめる。

「あ!」

証明写真機で写真を取ろうとしていた女性が声を上げた。
ロイがそれを拾う。

「メ、メルシィ!」

女性はよほど慌てているらしく、ロイから小銭を受け取ると、再び落としそうになっていた。
証明機に戻るが、説明文がよくわからないらしく、冬だというのに額に汗を浮かべて格闘していた。

ロイは見かねて声をかけた。

「・・・何か、お困りですか?」

ロイは英語で尋ねる。
女性がハッとしてロイを見上げた。

(日本人・・・?)
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