パリの恋
女性は黒く大きな目を潤ませ、今にも泣き出しそうな顔をしている。

「はい、あの、写真を撮りたいのですが、よくわからなくて・・・」

英語は覚束ないが、必死なのは伝わってくる。

ロイはインスタントの写真証明機で写真を撮ったことなどなかった。
女性はフランス語が読めないらしい。ロイは代わりに説明文を読み、手順を教えてあげた。

女性は硬い表情のまま写真撮影を行い、なんとか写真を手にすることができ、ホッとしているようだったが、次の瞬間再び焦り始める。

「今何時ですか!?」
「・・・4時40分です」
「大変!あと20分!!」

女性は日本語で叫ぶと、ロイにお礼を言い、外に向かって走り出した。

(なんだか・・・すごい慌てようだな)

ロイは少し笑ってメトロの乗り場へ向かおうとした。
しかし、振り返って唖然とした。足元に先ほどの女性が撮った写真が落ちているではないか。

「!!」

ロイは拾って、慌てて女性を追いかける。

「ちょっと待って!」

女性は自分のこととは思わないのか、振り向かず全速力で走る。
ロイも全速力で走る。

「ヘイ!」

やっとのことで女性の腕を掴んだ。

「え!?」

女性が驚いて振り向く。
ロイはハアハアと全身で息をして、写真を差し出した。

「・・・忘れてますよ。お嬢さん」
「うわあ!私ったら!」

女性は青ざめて再び日本語で叫んだ。
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