パリの恋
ロイは、小夜が自分との距離を広げてしまったことを察知した。
アルルではあんなに近くに感じていたのに・・・。

「小夜・・・君は、着飾ることがそんなに大事だと思う?」
「そうじゃないわ。そうじゃなくて・・・」
「・・・わかった、じゃあ、今から買い物に行こう」
そう言って小夜の手を引き立ち上がらせた。
「え?」
「ついでに美容室にも」
ロイは強引に小夜の手を掴んで部屋を出た。

「ちょっと待って!」
エレベーターに乗り込む。ロイは小夜の顔をじっと見つめて、言った。
「今夜は君は僕の’マイ・フェア・レディ’だ」
「ロイ?どういう意味?」
ロイはそっと小夜の頬を指で撫でた。

「知らないの?ヘップバーンの映画」
「知ってるけど・・・」

イライザという花売り娘を一流の言語学者のヒギンズ教授が『どんなに下世話な花売り娘でも、自分の手にかかれば半年で舞踏会でも通用するレディに仕立て上げられる』と言って、教育するストーリーだ。ヒギンズ教授は、イライザに上流階級の話し方をマスターさせ、美しいドレスを着せて舞踏会へ連れて行く・・・。

「あの映画のように、君をレディに仕立て上げるんだ」

ロイはうきうきした気分で小夜をご贔屓のデザイナーのブティックに連れて行った。
「あまり時間がないんだ。彼女に似合いそうなものをいくつか見繕って。靴も、コートも全部だ」
ロイは店員に小夜のことを頼むと、困惑する小夜を置いて外へ出て行った。

数分後、店に戻ると小夜が鏡の前で体をひねって店員と何か話をしていた。

「どう?気に入ったものはあった?」
「ロイ!・・・どこに行ってたの?」

小夜はふんわりとフリルがあしらわれたシャンパンゴールドのミニドレスを着ていた。
露になった白い二の腕と鎖骨が色っぽい。
ロイは目を細め、満足げに頷いた。
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