パリの恋
「すみません、すみません。えーと、メルシィ!!」
「ちょっと待って!何をそんなに急いでいるの?良かったら力になるけど」

ロイは心配になり、思わず尋ねた。
女性はロイの言葉に少し驚いているようだったが、藁にもすがるといった様子で答えた。
「大使館に・・・5時までに行かないといけないんです!!」
「大使館?」
「はい。パスポートをなくして・・・」

女性の拙い英語によると、パスポートと現金を失くし、日本に帰るための渡航書を発行してもらうために大使館に行ったのだが、写真が必要なため、急遽写真証明機で写真を撮り大使館に戻るところなのだという。

今日は22日の月曜日だが、大使館の休みは日本の祝日と同じである。23日は休みのため、なんとか今日中に発行してもらわなくてはいけないらしい。

「日本大使館か・・・。ここからじゃ、今から走っても間に合うかわからない。タクシーで行ったほうがいい」
「でも、私お金も盗られてしまって・・・もう、3ユーロしか・・・」
「僕も一緒に行こう」

ロイはタクシーをつかまえると、二人で乗り込み、大使館へ急ぐように運転手に伝えた。運転手のおじさんは陽気な口調で、任せておけと言って歌いだした。

女性が心配がるのが伝わってくるが、運転手はパリの道を熟知しており、細い道をすいすいと通って、あっという間に大使館まで運んでくれた。

「あの、ちょっと行ってきます。すぐ終わると思うので、待っててください」
そう言うと女性は急いで大使館の中へ消えていった。

ロイは、どうせお礼を言って終わりなのだろうからこのままこのタクシーで16区の友人の家に行ってしまおうと思い、行き先を告げた。

すると、運転手がニヤニヤと笑いながらフランス語で言った。

「おや?あの子はあなたに待っててくれと言ったんじゃないのかい?」
「・・・そうみたいだね。でも、知り合いというほどの関係ではないから」

ロイはフランス語で適当に返したが、運転手は急に真面目な顔つきになって言った。

「いやいや、それはいけないよ。あの子は待っていると思っているのに、あなたがいなかったら悲しむだろうよ。女性を悲しませてはいけない。急いでいるわけではないなら待っているべきだ」

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