パリの恋
なぜだかすごい剣幕でそう言う運転手に、ロイは少し呆れた。しかし、急いでいるわけではないし、少しだけ待ってみるかと思い、タクシーを降りた。
「きっと喜ぶよ」
運転手は途端に笑顔になり、うんうん、と頷いて車を発進させ去っていった。
ロイはため息をつき、大使館の前に挙げられている日本の国旗を見上げた。
(日本か・・・)
ロイは日本で出会った美しい女性、木下由加子のことを思い出していた。
由加子はロイの古くからの知り合いである島谷圭吾の会社の秘書だった。
父の付き添いで日本のとあるパーティーに出席した際に見かけ、一目惚れした女性だ。
しかし、彼女はボスである圭吾と恋人の関係であった。よくある話だ。
今は昔の恋の痛手としか思っていないが、ロイはあれ以来日本人と触れ合うのを意識的に避けていた。
寒くなってきた。時計を見ると、5時を過ぎている。そろそろ帰ろうと思った時だった。
「すみません!」
先ほどの女性が走って大使館から出てきた。
「発行してもらえましたか?」
ロイは紳士的な振る舞いで尋ねる。
女性は何度も頷きながら答えた。
「はい。ありがとうございました。助かりました」
深々と頭を下げる。
「あの、タクシー代返しますので、住所教えていただけますか?日本に
帰ってから送ります」
女性はゆっくりと英語を思い出しながらそう言った。
ロイは笑って言った。
「その必要はありませんよ。たいした金額ではありません」
そう言いながら、一文無しでこの女性はこれからどうするつもりなのだろうと思った。
「・・・失礼ですが、これからどうするおつもりですか?その、3ユーロしか持っていないのですね?」
女性は少し恥ずかしそうに笑って言った。
「はい・・・。でも、ユーレイルパスと航空券は盗られませんでした。だからなんとか日本には帰れます」
「ユーレイルパス?」
ロイは初めて聞く単語を口にしてみた。
「きっと喜ぶよ」
運転手は途端に笑顔になり、うんうん、と頷いて車を発進させ去っていった。
ロイはため息をつき、大使館の前に挙げられている日本の国旗を見上げた。
(日本か・・・)
ロイは日本で出会った美しい女性、木下由加子のことを思い出していた。
由加子はロイの古くからの知り合いである島谷圭吾の会社の秘書だった。
父の付き添いで日本のとあるパーティーに出席した際に見かけ、一目惚れした女性だ。
しかし、彼女はボスである圭吾と恋人の関係であった。よくある話だ。
今は昔の恋の痛手としか思っていないが、ロイはあれ以来日本人と触れ合うのを意識的に避けていた。
寒くなってきた。時計を見ると、5時を過ぎている。そろそろ帰ろうと思った時だった。
「すみません!」
先ほどの女性が走って大使館から出てきた。
「発行してもらえましたか?」
ロイは紳士的な振る舞いで尋ねる。
女性は何度も頷きながら答えた。
「はい。ありがとうございました。助かりました」
深々と頭を下げる。
「あの、タクシー代返しますので、住所教えていただけますか?日本に
帰ってから送ります」
女性はゆっくりと英語を思い出しながらそう言った。
ロイは笑って言った。
「その必要はありませんよ。たいした金額ではありません」
そう言いながら、一文無しでこの女性はこれからどうするつもりなのだろうと思った。
「・・・失礼ですが、これからどうするおつもりですか?その、3ユーロしか持っていないのですね?」
女性は少し恥ずかしそうに笑って言った。
「はい・・・。でも、ユーレイルパスと航空券は盗られませんでした。だからなんとか日本には帰れます」
「ユーレイルパス?」
ロイは初めて聞く単語を口にしてみた。