パリの恋
1等の席はさすがに大きく、ゆったりと座ることができた。
テーブルの上に先ほど買ったサンドウィッチとコーヒーを乗せる。

「実はTGVに乗るのは初めてなんですよ。なんだかわくわくしますね」

ロイは女性を窓際に座らせ、自分もコートを脱いで座った。

「ええと・・・あ!そういえば、あなたの名前を聞いていなかった」

ロイはハッとして言った。
女性はその言葉にやっと気をゆるしたような笑顔を見せた。
ふふふと笑って両手で口を抑える。

「あなたって、おかしな人ね」

思ったより可愛らしい笑顔に、ロイもつられて笑う。

「なぜ?」
「だって、名前も知らない私をここまで強引に私を連れてきて・・・。アルルにまで一緒に行ってくれるなんて」
「’おかしな人’なんて、初めて言われたな」

女性は、しまったといった風に照れて謝った。

「ごめんなさい。親切にしてくれてる人に対して失礼なこと言ってしまって」
「違うよ。嬉しいんだ。私にとっては褒め言葉だ」

そう言ってコーヒーを手渡した。

「私の名前は小夜」
「サヨ?」

小夜はうんと頷いて、今度はロイに名前を尋ねた。

「ロイだ。よろしく」
ロイは手を差し出した。

「でも、その・・・’ウォルターさん’てお呼びしたほうがいいんじゃないかしら」

小夜はおずおずと手を差し出した。
ロイは首を横に振って言った。

「ロイでいいよ。アルルの旅を楽しもう」

そう言って小夜と握手した。
小夜の手は細く冷たく、か弱い印象を与えた。
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