short short short!
サクリファイス
 こけた頬に手をあてると、やわらかな冷たさを手のひらに感じた。それだけで分かる、彼はとても優しい人。肌はこんなに、氷のような色をしているのに温度は失われていない、それはきっと、こころがとても暖かいせいだと思う。ひふという悠久の時が育てた凍土につつまれて、彼のこころは育ってきたんだ。勿体なさといとしさが、混ざってはじける。同時にごめんねと、くちびるが形づくった。声になりはしないけど。そして彼には、このくちびるのわずかな動きでさえ、見えないけど。
 奪ったものをかえしてあげるなんて、ぼくにはできるわけがなかったんだ。
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