桜のなく頃
桜のなく頃
冬が終わりを告げる頃、花々は緩やかに呼吸を始め、その美しさを世界に伝える。

滑らかな風は人々の頬に軽く口づけをし、去り際に新しい季節の喜びを鳥達と共に歌う。

そんな優しい季節の中で彼女は美しく咲いていた。


新学期が始まり、新しい学年に上がった俺の前に再び彼女は現れた。


「はじめまして桜です。」

特に特徴もない制服を着て静かに彼女は微笑んだ。


初めて彼女と会ったのは彼女の名前と同じ桜の木の下…らしい…。

出会ったのはもう10年以上も前、親に連れられて行った地域の集まり。

その時のことは俺も覚えていないけど彼女ももう覚えていないだろう。


そんな事を落ち着いて考えられたのは担任から彼女が紹介され、始業式が終わり、教室に戻ってきた後だった。


仕方がないことだろう。

二年前に引越していった幼なじみが何の連絡もなしに転校生として現れたのだから。


いや、幼なじみだからではないか、
落ち着かなかったのは

彼女が俺の初恋の相手だから。
< 1 / 17 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop