桜のなく頃
「君は…誰だ?」


俺は目の前の幼なじみに向かって問う。

二人の間に流れるのは沈黙と花から零れた桜の花びら。


「…バレちゃったんだ。」

彼女は少し哀しそうに笑いながら俺に向き直った。

「私ね。引越した先で事故にあったの。

それでそれまでの記憶全部なくしちゃった。」


………え?


「私は私を知りたかったの。

どんなところで産まれて、どんな空気を吸って、何を見て育って…。


知りたかったの。」


「私はどんな人を好きになったのか。」


「私は私を知らないから…。」

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