【短編】しろ犬のしっぽ ~幾多の時間(トキ)を経て~
太陽がオレンジ色に変わる。



「あっ!いけないっもうこんな時間!」


急に、
希毬は立ち上がった。

「夕飯の支度しなくちゃ」


「え、あぁ」


希毬が部屋から駆け出す。

「あっ、あぁ!じゃあっ僕は、もうそろそろっ」


「え?」

部屋から駆け出した希毬が振り返る。


「そろそろ帰ります。
本当に、お世話になりました。この御恩は、忘れません。
有難うございました」


私は、深々と頭を下げると部屋を出て、外付けの廊下を歩き出した。


「どうやって?」


背後からの希毬の質問に、
私は、足を止めた。

そして、
振り返る。


振り返ると、
希毬は私を見つめて、
ニコニコっと微笑んでいた。


希毬の質問に我に返った私は、
返答を詰まらせてしまった。


そんな私を見ながら
、希毬は微笑んでいる。


「どうしてここにいるのかも、どうやって来たのかもわからないんでしょ?
なのに、どうやって帰るの?」


「あ……それはー…」


そう

確かにわからない。


「…僕の言ったこと、
信じてるの?」


「うんっ信じてるよ。
たくさん教えてくれたじゃない。未来の日本のこと」


「…そっか」


そして、
私は、帰る方法を考える。


私が、考えてもわからないのに考えていると、
どこからか、
暫く姿を見なかった白い子犬がやってきて、
私の足下に
ちょこんとおすわりした。


「まぁ~牡丹ったら。

…そうだっ、
悠さん、牡丹を見ててくれる?」


「え?」


「私、夕飯の支度してくるね」


そう言って、
希毬は、
駆けて行ってしまった。


「あっちょっと、」


オレンジ色の風景の中、
私は、
ひとりぽつんと残る。


傍らには、
白い子犬。


「しょうがない…」


私は、
子犬の傍らに、
静かに腰を下ろした。


「お世話になります」


ー ワン! ー


囁いた私に、
真っ白な尾をめいっぱいに振りながら、
白い子犬は鳴いた。


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