【短編】しろ犬のしっぽ ~幾多の時間(トキ)を経て~
夜になり


雪解けの季節とはいえ、
夜は、
まだまだ冷え込んだ。


温かい布団を用意してくれたので、
ポカポカの布団の中で、仰向けに横たわる。


寝心地の良い布団の中で、
今日一日の不思議な体験に疲れたはずなのに、
私は、
なかなか寝付けないでいた。



… ワォー…

… ワォー…


遠くで、
犬の遠吠えがしている。



私は、
どうしても寝付けなくて布団から起き上がり、
部屋を出た。



「ふぅ~…
やっぱ冷えるなぁ…」


外付けの廊下に立ち、
真っ暗な空を見上げると、
一際目立つ黄金の月が、
雲ひとつ無い夜空に浮かび上がり、
綺麗に真ん丸に光輝いていた。



「綺麗だなぁ…
…こんなに綺麗な月は、初めて見た。
澄んでいて、よく見えて、
間近に見える」


手を伸ばすと、
届きそうだった。


「そう言えば、

源氏物語の源氏之君が、
月明かりで初めて見た
とある女性の顔に、
酷く驚いたって話があったなぁ」



滑稽さに
思わず
ふと笑う。



「ふぅ~寒いっ」



吹きさらしの廊下は
流石に長居は辛く、
私は、
部屋に戻ろうとした。


と、そのとき、


「ん?」



どこからか、
女性のすすり泣く声が
聞こえた。


私は、
辺りを見渡す。


すると、



「あ…」


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