【短編】しろ犬のしっぽ ~幾多の時間(トキ)を経て~
風景が、
濃いオレンジ色に染まる。



散歩から帰ると、

縁側に腰掛ける希毬の姿を見つけた。



手元の何かを見つめて、
儚く微笑む
静かな横顔。



らしく無い
彼女の横顔に、
私は、
見られたくはない状況を見てしまった様な気がした。



「あ…」



希毬が気付いて私の方を見る。


「悠さん、おかえり」


「あ…ただいま…」


「どうしたの?
つっ立ったままで」


「あっいや……
ごめん、邪魔しちゃったよね?…」


「ううんっ」


希毬は、
ケタケタと微笑んで、
私に手招きをした。


私は、
徐に歩み寄る。


「座って」


希毬に促され、
私は、
希毬の隣に
静かに腰を下ろした。



「宗一郎さん」


そう言って、
希毬は、
自分の手元のものを
私に見せる。


見ると、

一枚の白黒写真。


少し折り目が付いていたけど、
しっかりと両手で持つ希毬の姿に、
大事にしている感じがわかった。


「見てもいいの?」


「うん」


写真には、
兵隊の格好をした、
とても凛々しい青年の姿が写っていた。



「若いね。何歳?」


「同い年よ。二十歳」


「へぇー…
…凄いなぁ…」



私は、
自分にはできないだろうと思い、
頭が下がる思いだった。


「私は、」


希毬は、

静かに口を開いた。



「戦争を終わらせるために、戦地へ行きます。
貴方は、
戦争が終わった後の
日本を見てください…」


「え…」


私の知っている言葉だった。


学校の授業で、
先生から教わったこと。


「…って、

宗一郎さんが言ったの。

これが、

彼の最後の言葉だった…」


「…そう…」



兵隊さんたちが、

そういう思いで戦地へ行ったということを、

実感として、

肌身に知る…

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