【短編】しろ犬のしっぽ ~幾多の時間(トキ)を経て~
「彼はね、
決死隊だったのよ」

希毬は、
静かに言った。

「…決死隊?」


「え…知らないの?
未来の日本では教えないの?
伝わってないの?……」


「あっ…いやっ、
ごめんなさい、
僕がわかってないだけかも…」


「そう…」



希毬は、
視線を落とした。



「…特別攻撃隊…
特攻隊…」


「あっ…知ってる…」


「そう」


希毬は、
遠くを見つめた。



「特攻隊には、
決死隊と
必死隊があって…」


「うん…」


「悠さん、
意味わかる?」


「え、」


「ふたつは、意味が違うのよ…
隊には、区別がある…」


聞かれて、
言葉に詰まり、
私は、
意味を考える。


― 決死隊とは… ―


― 必死隊とは… ―


どちらも、

命懸けで

……覚悟して…



「覚悟…

…決死隊……決意…」


すると、


希毬は、
静かに口を開いた。



「自分が覚悟するだけではないの、
よ……


決まってるの…


…決死隊は、
戦争で決められた死を
決意する…

必死隊は…

必ず 死ぬ

…よ………」



私は、

…背筋が震えた…


もし、自分が…

と…


とっさに、
自分に置き換えて考えた時、

背筋が 凍りついた…


希毬は、
言葉を続けた。



「必死隊が、先にいく。
必ず、って決められた
兵隊だからよ。

そして、
決死隊……

………戦争…」



希毬が黙った。


言葉が途切れた様に感じたので、
希毬の方を見ると、

希毬は、

泣いていた…


私が見たので、
希毬は、
慌てて顔を隠した。


すぐに涙を拭って、
何でもない顔をした。


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