【短編】しろ犬のしっぽ ~幾多の時間(トキ)を経て~
「希毬さん」




「…え?」



背後からの
男の人の声。


誰だろう

知っている声なのか、
希毬は、
不思議そうに足を止めた。

そして、
振り返った希毬の

凄く驚愕した顔に、

私は、
何かが起こったことを察する。


ゆっくりと
希毬の視線を辿ると、

視線の先に見えたのは ――…

「あっ…」


希毬が大事に見せてくれた
写真の人だった。


確かに、
其処に立っていた。


― こんな
    ことって… ―



「ソウ…イチロウさん…―…」


希毬は、呟き、

目を見開いて、
縁側を降りる。


「本当に?
本当なの?…
…宗一郎…さん…」


希毬は、
覚束ない足取りで
歩いていく。


それは、
まるで スローモーションの様に…


彼は、
紛れもなく其処に立っていて、

希毬は、

彼へと辿り着く

あと少しというところで、

泣き崩れた…


彼が、
希毬を見つめて、
敬礼する。


「木村 宗一郎、
ただ今戻りました!」

希毬は、
顔を上げて、
彼の敬礼を然と見届けた。


そして、
にじむ瞼を拭いながら、
何度も何度も頷いた。


彼が、
静かに歩み寄り、
希毬の傍らにしゃがむ。

希毬は、
逢えた嬉しさに、
彼をしっかりと見つめる。

「よくぞ、
御無事で…
本当に、お疲れ様でした…」



― やっと
素直に泣いたね ―

私は、
心の中で呟く。



これまでの溜め込んだ想いを吐き出す様に、

そして、今

彼が目の前にいるという感慨無量な出来事に、
希毬は、

泣いて…

…泣いて…

…泣いて

…泣いていた……

彼が、
希毬の肩にそっと手を置く。


希毬が、
その手に手を添える。

そして、
堅く握り合う手と手が、
どれほどの想いかを語っていた。

私は、涙が溢れた…


― 良かった―…
良かったね ―…


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