【短編】しろ犬のしっぽ ~幾多の時間(トキ)を経て~

忘れられぬ言葉

テレビで、戦争についての番組があっていた。

どんな番組か簡単に説明すると、論議番組。

学生服を着た若者やスーツ姿の中年の男性、御老人等々が出て論議している。

いろんな意見や実体験、感想などの話の中、皆の意見は同一に、「戦争反対」だった。

映像が流れた時には、皆、涙を流し、学生は、自分は体験してなくとも、映像で感じたままに泣き、ハンカチを顔に当てたままだった。


私は、ふと思い出した。

ある、言葉を。



【私は、戦争を終わらせるために戦地へ行きます。貴方は、戦争が終わった後の、日本を見て下さい】



もう、忘れられなくなってしまった言葉です。


私は、思う。


兵隊さんは、どんな気持ちで言ったのだろう。

戦地へ向かう内心は、どんなだっただろう。


誰に、告げたのだろう。

家族………

この言葉を告げなければならない人生とは…一体………



恋漕がれ、愛する人に告げたのかもしれない。

心底愛した人かもしれない。

或いは、

初めて愛した人だったかもしれない。

もっと顔を見ていたかったかもしれない。

もっと、傍にいたかったはず。
離れたくはなかったはず。

もう、二度と会えない、見ることもできないとは、どれ程の想いだったであろう。

一緒に過ごすという、期待やこれからの出来事を思い描くことの心躍る様な未来は無く。

与えられず。


一体、どんな思いだっただろうか…


私達は、今こうして、自由だ。

食べれるし、遊べる。

したい事ができる。

強制訓練も強制徴兵も無い。

同じ人間で、こうも違う人生を生きた人がいた事を忘れてはいけないはずだ。


忘れられない。


誰かが、『行きてるだけで、丸儲け』と言った。

誰かが、『私は、周りの人のお陰で生かされてる』と言った。

誰かが、『人生の流れが少しでも違っていたら、私は、もしかしたら、生まれて来なかったかもしれないのだ。こうして、いないはずだったかもしれない』と言った。

今、こうして、自由な人生を過ごせる事を、有難く幸せだと思えない様な人間にだけは、ならない様にしたい。
< 3 / 34 >

この作品をシェア

pagetop