【短編】しろ犬のしっぽ ~幾多の時間(トキ)を経て~
家を出て、
五分くらい歩き、
三丁目に着いた。


一際目立つ、
大きな和風の家に
目が留まる。


何故か、自然とその家へと足が向いた。


辿り着き、
表札を見ると、
偶然にも、『木村』
と書いてあった。


「わぁー…」

「大きな家」

「そうだねぇ」

子どもたちは口々に言い、
大きくて立派な和風の門構えに圧倒されながら見上げていると、
不意に門が開いた。

「あっ」

「お父さん、開いたよ」

「うん」

私は、中を伺う。

「すみませーん」

返答はなく、
もう一度言ってみる。

「すみませーん」

又も返答はなく。

「お父さん、どうする?」

「うんー、どうしようか」

すると、
中から若い女性が出てきた。

「あっはい」

「あ、あのー、
この子犬、こちらの犬ですか?」

「あぁ!そうですっ、
すみませーん。

お祖母ちゃーん、
トド帰ってきたー、
お祖母ちゃーん」

庭の向こうを見ながら言っているが、
向こうからの返答はない。

「お祖母ちゃん、
耳が遠いもので」

そう苦笑いしながら、
女性は私の方へ歩み寄り、お辞儀をした。

「わざわざすみません。
有難うございます」

「いいえ」

私が、
子犬を渡す様に娘に促すと、
娘は女性に尋ねた。

「このわんちゃん、
お祖母ちゃんの?」

「うん、そう」

「私が渡す。いい?」
「まぁ何を言って…
すみませんねぇ」

「いえいえ」

娘の図々しさに
透かさず私が詫びると、
女性は、構わないと言いながら、
娘に微笑んだ。

「こんなに可愛いお嬢ちゃんが渡してくれると、お祖母ちゃん、喜ぶわ。
お祖母ちゃん、庭の奥の縁側にいるの。
お嬢ちゃん、
渡してくれる?」

「うんっ」

娘は、
嬉しそうに返事をすると、
姉弟共々
中へと駆けた。


「わざわざすみません。どうぞ」


「あ、お邪魔します」

私は女性に会釈をして、
子どもたちの後について行った。

< 33 / 34 >

この作品をシェア

pagetop