【短編】しろ犬のしっぽ ~幾多の時間(トキ)を経て~
庭は、
家の裏側にも広がっていて、
子どもたちについて歩いていくと、

縁側に
腰を丸めてちょこんと座る
おばあちゃんの姿があった。


「あっ、いた」

「おばあちゃーん、
こんにちはー」


子どもたちは、
おばあちゃんの傍へと駆けていく。

そして、
娘が子犬を
おばあちゃんに手渡した。


少し遅れて歩み寄る私には、
おばあちゃんの声は聞こえないが、
戻ってきた子犬と子どもたちを見ながら、
嬉しそうに微笑んでいる様だった。

そして、
私が傍まで来ると、

おばあちゃんは気付いて、
私の方を見た。


と、
そのとき


― えっ ―…



私は、酷く驚いた。


目を丸くしている私を、
おばあちゃんは、
静かに見つめる。



「…悠さん…」




希毬、さん?…




こんな…ことって―…



はっきりとある面影に、
希毬さんなのだとわかる。



私は、

ゆっくりと歩み寄った。

そして、
目の前に立つ。


驚いている私に、
希毬は、
微笑んだ。


その笑顔は、

あのときのまま…



私は、
思わず涙が溢れた…



『木村』という姓に
二人が結ばれたことを知る


「悠さん…
お誕生日おめでとう」

「え…
覚えててくれたの」


「もちろん」



私は、
感極まった…


そして…
一番言いたかった言葉を伝える


「希毬さん…
御結婚
おめでとうございます」


希毬は、
あの日以上に
満面に微笑む



もう…


夢でも 幻でもなく…



紛れもない現実と


紛れもない幸せが


ここに あった ―――…


― お祖父ちゃん…

涙もろいという意味…

…わかったよ ―



幾多の時間(トキ)を経て…

…完

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