【短編】君と僕、

自虐ピアス、またの名を雨の集団自殺



「ねぇ、ピアス開けよっか」


彼女が呟いた。
まるで彼女の言葉が合図だったか
のように雨が単独飛び降り自殺を
始めた。
それは段々強くなり、集団自殺に
変わっていった。
鼓膜を刺激するのは雨が地面に叩
きつけられていて(ああいたそう)
爆発した音のみ。
自然と彼の眼は彼女のじゃらつい
たものと空洞を見つける。
いつの間にか大量に殖っていたそ
れに顔を歪める。

「いたいからイヤだ」
「痛くないよ、熱いの」

しゅぼっとライターが火を放ち、
体に悪影響のある煙草が煙をゲロ
った。
外国製の煙草で、喉を掻き毟りた
くなるような甘ったるい匂いが彼
を包み込む。

「ピアス開けたい症候群き僕を巻
 き込まないでくれ」
「私は病気じゃないよ」

ケラケラと軽く笑った際に吐き出
された煙が細くたな引いて、消え
る。

「いたくないから」
「イヤだ」
「いいじゃん、1個くらい」
「……」
「ヤりたくなってきたでしょ?」
「…本当にいたくない?」
「痛くない、熱いの」

煙草はキライだが、彼女の煙草の
吸い方はスキだ。
矛盾点が生まれるが、と彼は思っ
た。
未成年のときから吸っている、と
言う彼女には妙な貫禄がある。

「熱い、だけ」
「本当?」
「肝のちっせー男だな」

昔、逃亡中の殺人鬼が人質をとり
止むを得ず警察が銃で撃った話を
聞いたことがある。
殺人鬼は熱い、熱いと撃たれた箇
所を押さえながら言ったらしい。

「耳出して、」
「は?ヤるって決めてないから」
「いいよ、開けちゃおう」
「……」

煙草をくわえながら器用に笑った
彼女に彼はため息をついた。
こうなったら断ることは不可能な
ことを解っているから。

「耳朶?軟骨?指?眉とヘソは安
 全ピンでは難しいや」
「え…ピアッサーないわけ?」
「なんで!そんな1回限りの高い
 もんより安全ピンのがお得です」
「……」
「安全ピンは名前通り安全です」
「嘘くさー」
「いいから、どこ」
「みみたぶ」
「おけ」



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