君が生きて 俺は死んだ
序奏
夏の暑さは締め切られた空調施設の中だけあり、全くと言っていい程に皆無だった。
そのためだけに、この場所を選んだという説もある。
「やっぱ夏の醍醐味だよね」
「ビーチに着いて『暑いから海入ろー』とか言っちゃう大馬鹿野郎共に俺は言いたい。電器屋に来いと」
「そんな別世界の人間なんて放っておこうよ。ああいう人間は体をウェルダンにしないと気が済まないんだよ。そういう人種なんだよ」
「それに奴等ときたら夏の風物詩がかき氷に冷たいビール……確かに俺達とは別人種のようだな」
エアコンや数十台にも並ぶ扇風機に誘われてやってきた。
こここそが夏の風物詩。
それだけに止どまらず、その涼風が余すことなく注がれるマッサージチェア。
その真向かいにそびえるは有線放送フル完備のテレビコーナー。
これ以上のデートスポットが果たして存在するだろうか……
「ねえ」
「何だよ」
「うるさくない?」
「確かに」
……多少の雑音は目をつむるにしても、その場は居心地の良い空間にはもう一歩惜しかった。
せめてチャンネルが全て同一なら耳障りさも軽減されるだろうと
「ぜんぶ大河ドラマにしちゃおう」
「戦場面とか、うるさそうだけど」
「なら音量も下げよう」
俺はテレビコーナーを完全制御した。