君が生きて 俺は死んだ
狂奏
盆休みが近付くと、ユチは楽しそうに大量のパンフレットを広げて会議を始めた。
一応は俺も参加している筈なのだが、どうやら権限はないらしい。
「海外に行きたいよね」
そんな金ないだろ
「オーストラリア9日間の旅だって。いいなぁ~」
休み1週間しかないだろ
物理的にムリ
「……マサは行きたい場所ないの?」
「俺に権限あるの?」
「参考までに聞いてあげる」
行きたい場所ねえ……
正直なところ、主夫のように毎日家にいるのが当たり前な生活を送っていると
近所の動物園ですら遠出に感じる。
かと言って、そんな生温い提案をすればユチはブチ切れるだろう。
そんなとこ一人で行けだの、飼育された動物より野生の動物が見てみたいだの。
「それならアフリカなんてどう?」とか言い出しそうだ……
……結局は俺の発言権など却下だろう。
「どこでもいいよ」
「何で?」
「ユチの行きたいところにしなさい」
「…お金の心配してるの?」
心配はしてないが、遠慮はしてるな
「ホントに行きたいとこないの?」
あらためて俺は自分の行きたい場所を思い浮かべた。
パッと思い浮かんだ場所が一つあった。
しかし、そこはとても観光とは呼べない場所で……
「ねえ!ないのッ!」
「いや、あるにはあるんだけど…」
「どこ?」
「浜松。中学生くらいまで住んでたんだよね」
「楽しいの?」
「ショボい遊園地がある」
「ふーん……」
興味なさげな横顔だったが
「じゃあ、そこに行こ」
……意外にもOKが出た。