パリ・ローマ幻想紀行
旅行馴れした伊沙子さんと恵美さんの二人はどこへともなく姿を消していた。一つ年上の従兄弟は、気まぐれな質である。彼もまた、何処えともなく、姿を消していた。
 飛行機は、時間通り二十時に離陸する。雨が少し降っていた。二十時といえば、東京ではネオンの花盛りであるが、太陽はまだ沈まず、昼間と同じ明るさである。パリからローマへと独り言を言いながら、この声をビデオカメラに録音し、離陸のワンカットを収める。永遠の都ローマとはどんなところだろう。機内の小さな窓から下界を見ていたら、灯りがちらちら目に入った。ローマ到着は二十二時というから、多分あの灯りはローマの灯りに違いない。
《それにしても暗い。ローマ郊外の田舎町の灯りだろうか?》
旧所名跡らしきものが所々にライトアップされている。私はビデオカメラを構えた。ローマだ!ローマ、ローマだ!思わず声を出した。
《東京の夜景のようにキラキラしていない。静かだ!町全体が寝静まっているようだ!一体どんな町なのか?》心の中で想像が駆け巡った。
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