パリ・ローマ幻想紀行
タバコを吸いに行くには、伊沙子さんの膝と従兄弟の奥さん、名前は恵美って言うんだけど、二人の膝と座席の狭い間を通らなければならない。これはまさしく二人の陰謀である。
《なーに、トイレに行くと言えば通さざるを得ないだろうよ。そこでタバコを吸えばいいんだ。浅はかな陰謀さ。馬鹿め。アッハハ!》
私を無視した態度で、すっかり旅行気分になっている二人の顔をちらりと見た。
 成田空港を離陸して十二時間でパリに到着する。私は、ビデオカメラマンとして、一応今回の旅行のストーリを頭の中に組み立てていた。ただし、旅行と言うのは、これから先どんなカットシーンがあるか予想できないところに難しさはある。ビデオカメラマンとしては、これも旅行の楽しみの一つである。
《はばかりながら、私もビデオ撮影については、伊沙子さんのお墨付きをもらっている。一言言わせてもらえば、ワンカットシーンはせいぜい十秒以内に収めるのがコツだね。再生画面に映しだして、同じ画面を十秒以上見ていると飽きが来るからね。それに、カメラとは違って、名所旧跡ばかりじゃ見ていて面白くないってことさ。旅行の雰囲気を出すには、何気ないところの撮影も必要ってことになる。ワンカットが十秒として、一時間から二時間にまとめるには何カットになると思うかね。そして、何気ないカットシーンも必要だとなると、ビデオカメラマンは、常時その気を配っていなければならないと言うことになる。それに、的確なナレーションを入れなければね。独り言のようにさ》
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