パリ・ローマ幻想紀行
《それに、伊沙子さんの厳しい映倫と言う関門があるから、例えば、寝顔の撮影はカットされるだろうよ。それでいて、伊沙子さんは旅行を満喫することに徹している。馬鹿馬鹿しいと言えばそれまでだが、私としてもビデオを撮るのもまんざら嫌いではないので、ここのところは五分五分ってところだ》
 恵美さんと伊沙子さん二人は、何時ものように世間話をしていたが、徹夜の荷造りがたたったのか、伊沙子さんは眠りに入った。この寝顔をワンカットと思ったが、伊沙子さんの映倫に引っ掛かりそうな気がしたのでやめにした。小さな窓から外を見ても、雲の上で下界は何も見えない。前の座席の背のところから簡易テーブルを引き出して、その上にビデオカメラを置いて、ヘッドホンで音楽を聴くことにした。私も何時の間にか眠ってしまったらしい。機内食が配られてきて、伊沙子さんに揺り動かされて目が醒めた。スチュワーデスさんが私のビデオカメラを見て、記念に撮ってあげましょうか?と言ってくれた。これが最初のワンカットシーンである。
< 7 / 143 >

この作品をシェア

pagetop