叶わぬ恋
「ちょっと、ちょっと。」


彼女が、カウンターの影から手まねきしていた。


「何?」


行ってみると急に何かを口に入れられた。


「どう?おいしいでしょ?」


びっくりして味わうまもなく飲み込み


「何やってるの?」

「これ、料理長の新作だって。
こっそり味見。」

「怒られるって・・・。」

「うんん、料理長がこっそり食べろって・・・。」

「マジで?あの料理長が?」

「うん。ほら、あ~ん。」


彼女は、誰にでも好かれ、誰でも味方にしてしまう人だった。


「いいよ。」


照れくさくて、その手を押し返したものの、

彼女は、ニコニコしながら、

「ほら、早く食べてって。」


僕の口にまた一つ放り込み指先に付いたソースを・・・

僕の唇に触れた指先のソースをちょっと舐めて・・・


「うん。やっぱ、おいしい。
お皿返して来るね。」

と行ってしまった。




ドキドキした。




何だか分からないドキドキ。


そう、その時はまだ自分の気持ちに気づいてなかった。



気づかないほうが・・・



幸せだったかもしれない。



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