叶わぬ恋
偽りの家庭

平然とそこに自分がいる。



僕の心の変化など・・・



分からない。






「ことみちゃん、ちょっといらっしゃい!」



妻がキッチンで娘を呼んでいた。



「あ~い!」


僕の膝の上に座ってテレビを見ていた娘が急いで立ち上がる。




「また何かしたのか?」


「うんん、ことは何にも悪いことしてないよ。」



そう言い、ニコニコしながら娘がキッチンに向かう。




妻が娘を『ことみちゃん』と呼ぶときは大抵なにかあったとき。



今日は何をしでかした?


そう思いながら



さっき『ことみちゃん』と妻が呼んだときの


自分の一瞬の動揺。




誰にも分からないけれど

僕にははっきりと自分が動揺したのが分かった。




大切な娘に・・・忘れられない人の

名を付けた。


その秘密は誰も知らない。




僕の中で永遠に忘れられない人の名。


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