真夜中の太陽
ずっと夢の中にいるような気分だったけれど、新聞配達のバイクの音が聞こえ、現実に戻る。
永輝が一瞬、話を止める。
もう別れの時なんだと身体で感じたけれど、永輝は再び話を続けた。
あたしは時間を惜しむようにして、バイクの音には触れなかった。
何も聞こえていないよ、という素振りで永輝の話を聞き続けた。
永輝が「そろそろ帰るね」と言ったのは、太陽がすっかり顔を出してからだった。
いつもは新聞配達のバイクの音を合図にしていたのに、今日はその合図を無視していた。
いつもとは少し違う過ごし方。
永輝はいつもより長くいてくれた。
永輝はブーツを履くと「じゃ」と言ってドアを開けた。
通路のずっと向こうにある階段に行くまで決して振り返らない永輝の後ろ姿を見送る。
それが、あたしたちのいつもの別れ方だった。
それなのに、今日に限って。
永輝は少し歩いたところで振り返って、静かに笑う。
……その表情が切ない。