真夜中の太陽
・忘却・
四月になり、大学では前期の講義がスタートした。
入学当初よりも一年の始まりはラクで、履修登録を済ませるだけだった。
再び始まる、大学とバイトの往復。
「柚羽ー、何かいいことあった?」
「えー?なんでー?」
「最近、楽しそうじゃん」
「そうかなぁ」
とても悲しいことがあると、あたしはよく人から「いいことあった?」と聞かれる。
永輝とはあの日以来、会ってもいないし、連絡もこなかった。
最初はやっぱり期待していた。
突然、ふらりとやって来るんじゃないかって。
その突然に備えて、あたしは部屋をキレイにし、薄化粧をした。
灰皿も取りに行かなくていいように、キッチンの棚ではなく、テーブルに常に出していた。
ほこりがたまらないように、毎日、灰皿を磨いた。
だけど。
どんなに待っても、そのドアが叩かれることはなかった。