ひまわり
それを知っているから、なんだかおかしくて、思わず噴き出してしまった。
「てめ、笑ってんじゃねぇよ」
そう言って、真っ赤な自転車にまたがって、裏門からの坂を下って行こうとする。
「待って!」
あたしが叫んでも、蔵島恭平は振り向きもしない。
「蔵島恭平っ!」
どこかで見たやり取りに、キキッと急ブレーキをかけて、彼が振り向いた。
その隙に、彼の隣まで走る。
「おまえな……」
彼は、眉間にしわを寄せながらあたしを睨みつけていた。
「苗字で呼ぶか、名前で呼ぶかどっちかにしろよ」
「じゃ、どっちで呼んだらいい?」
出会った頃の彼は、
『勝手にしろ』ただ、それだけだった。
だから、あたしの気の向くままに呼んでたんだ。
「そろそろ、名前で呼んでもいいんじゃね?」
そう言って、『ほら、さっさと来い』と、自転車を押し始める。
頭が真っ白になった。
まさか、そんな言葉が返ってくるとは思わなくて。
嬉しくて、ドキドキして。
また一歩、彼に近づけた気がした。