ひまわり
すると、恭平の顔がおもむろに近付いてきた。
両手のふさがるあたしは、どうする事も出来ない。
ただ、近づいてくる恭平の目を見つめた。
ゆっくりと重なる二人の唇。
ほんの一瞬だった。
高鳴る鼓動が、住宅街に響いているような気がした。
恭平はすぐに唇を離すと、ぎこちなく微笑んだ。
「やべ、しちまった」
そう言って、目だけであたしを見下ろす。
だけど、突然のことに驚き過ぎて、あたしは目を見開いたまま硬直していた。
「あっ、えーと、帰るか――」
「う、うん」
お互い固まる体を無理やり動かし、カチコチと歩いた。
途中で隣の彼の肩とぶつかり、体が過剰に反応する。
「ご、ごめん」
「お、おう」
ぎこちない二人の夏は、もうすぐ終わろうとしていた。
まだ暑さが残る中、確実に秋は近付いている。
このまま季節は過ぎて、あたし達は進級して、クラスが離れたと涙を流して、けれど、二人の絆は深まって――。
これから、“普通”の生活が待っているんだって思っていた。
何気ない日常、夢を追う高校生活。
この、あたしが求める“普通”が崩れていったのは、いつからだろうか――。
異変に気付いたのは、夏休みが明けて、しばらくしてからだった。