ひまわり


あ、そだ。


『人』って、手のひらに三回書いて飲み込めば、緊張が解けるんだっけ?


『人、人、人。』手のひらに三回『人』を書いて、口に入れようとした。
 

しかし、次の彼の一言で、あたしは飲み込むタイミングを完全になくしてしまった。


「くそっ、誰だよ!」
 

口を開けるところまでいったあたしは、なんとも怪しい顔で眉をひそめた。


「どうしたの?」

「今、誰かが鏡で照らしやがった」
 

そう言って、恭平は窓際の生徒を睨みつけた。
 

あたしも彼の視線を追って探してみたけど、鏡を持っていそうな人なんていなかった。


「気のせいじゃないの?」

「んなわけあるかよ。
超眩しかったんだぞ」
 

くそっ、誰だよとぼやく恭平は、乱暴に頭をかきながらあたしの目の前の席に腰かけた。

 







これが、忍び寄る足音のサイン――だった。
 

もう、手が届く位置まで来ていたのに――…。



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