ひまわり
そろそろ時間だと、あたし達は野球部の部室へと向かった。
3年生の校舎から1年生の校舎へと続く渡り廊下を歩いていると、いきなり真由があたしの腕を激しく揺らした。
目の前を指差し、目を丸くしている。
――ドクンっ。
真由が指さす方向を真っ直ぐに見て、心臓が大きく高鳴った。
向こう側から、恭平が歩いて来る。
全ての動きが、スローモーションであたしの目に映る。
恭平の姿を見つけて、あたしの足が止まった。
ポケットに両手を突っ込み、真っ赤なシャツをチラチラ見せながら歩く彼が、あたしの姿を見つけたとたん、眉間にしわを寄せて睨みつけてきた。
「おっまえ、どこ行ってたんだよ。
探したんだからなっ」
恭平の声、何日振りだろう。
真っ赤なシャツに真っ赤な眼鏡、何日振りだろう。
恭平のだるそうな姿、何日振りだろう。
久し振りに見る愛しき姿をしっかりこの目で確認したいのに、今は、その真っ赤なシャツさえも目に入れる事が出来なかった。
何も知らない真由は、あたしと恭平が再会した事に喜びながら、一人で部室へと向かった。
静かな空気が流れるのはあたし達の周りだけで、辺りは奇声に近い声が飛び交っている。
「おまえ、どうしたの?」
一向に話しださないあたしを見て、恭平が怪訝な表情になる。
「俺がいなくて寂しかったのか?」
彼が、いたずらっぽく笑う。
「悪かったな、ちょっと体調崩してな」
「……なんで?」
やっとで出せた言葉が、周りの奇声に掻き消された。