ひまわり
「――聞いてる?」
ふいに話しかけられて、ハッと我に返った。
「あ、えっと、ごめん」
慌てて彼に目を向けると、小さなグローブを手にしていた。
何年もタンスの上で放置されていたグローブの埃を、部屋の中央ではらっている。
「いつか、もう一度やってみたくて、ずっと取ってたんだ」
白い埃がきれいに取り除かれて、本来の茶色い姿が戻った。
けれども、所々が汚れていて、このグローブにはたくさんの思い出が詰まっているんだなって、心が熱くなった。
「だけど……
もう、出来ないのかもな……」
静かに、ゆっくりと、彼がグローブに言葉を落とした。
その言葉を聞いた途端に、涙が零れそうになる。
「親父の夢、話したことあったっけ?」
あたしは、首を横に振る。
「――甲子園」
恭平は言葉を区切った後、小さなグローブを手にはめようとしていた。
「ハッ、無理か」
だけど、手の真ん中あたりまでしか入らず、恭平は苦笑した。
「俺が高校で野球をして、甲子園に出て。
そいで、親父が甲子園で応援する。それが親父の夢だった。
夢なら夢で最後まで叶えろよって言いたかったけど、今更そんな事言ってもな」
恭平が、グローブの傷を優しく撫でた。
「野球、やらなかった事、親父怒ってると思う?」