ひまわり


『あなただけをみつめる』か――。
 

素敵な言葉だ。
 

恭平は、いつも意外な言葉を知ってるんだから。


毎回驚かされる。


そして、ますます好きになってしまう。








「……っ!」
 

突然、恭平が顔を伏せて目を強く瞑った。


「恭平……?」

「なんでもない……」
 

今にも消えそうな、恭平の声。
 

一瞬顔を歪ませたかと思うと、あたしを見て柔らかく微笑んだ。


「莉奈、今日はもう帰れ。
送るから」
 

本当に一瞬の出来事で、あたしはためらいを隠せなかった。


「――でも」
 

言い掛けたところで、言葉をのみ込んだ。
 

恭平が、何かを隠しているのはわかっていた。
 

あたしに心配をかけまいと、無理に笑っていることも。
 

自分の症状をあたしに見られたくないからと、伏し目がちに送ると言った事も。
 

わかっていても、恐怖の方が大きくて、あたしは何も聞けなかった。
 

聞いてしまうと、ますます症状が悪化してしまうような気がして――。
 

この子達の前では泣いちゃいけないと思えば思うほど、頬を伝う涙を止める事は出来なかった。
 

顔を伏せて立ち上がる。


「一人で帰れるから、大丈夫」
 

恭平に背中を向けながら言った。


「ちょ、おいっ!」
 

背後でかかる恭平の言葉を振り払うように、あたしは走って太陽の家を後にした。
 

一緒に闘おうと言ったのはあたしの方なのに、恭平の歪む顔を見てあたしは逃げ出してしまった。
 


怖かった――。
 
弱すぎる。
 

不安が大きいのは、恭平の方なのに――…。
 


それでも恭平は、あたしに笑みを見せたというのに。




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