ひまわり
「ちゃんと話せるか?」
高層ビルの間を人々が忙しく行き交う中、隣を歩くあたしに言葉を掛けてきた。
どうなるかわからなかったけれど、あたしは大きく頷く。
『今出来る事を一生懸命やる』
今、きちんと向き合わなきゃいけない。
お昼過ぎ、あたしの住んでいるマンションの前にたどり着いた。
自分の家だというのに、マンションを外から見上げるだけで、なかなか中へ足が進まない。
お母さん、いるかな。
あたしを見たら、なんて言うだろう。
向き合わなきゃと思うのに、いざとなると不安があたしを押しつぶした。
中へ入るのを躊躇っていると、恭平の手がそっとあたしの背中を押した。
その勢いで2,3歩は前に進むけれども、その先が思うようにいかなかった。
でも――
今、行かなきゃ。
意を決して、一歩を強く踏み出した。
その時。
マンションのエレベーターが開いて、中から仕事に行く格好をしたお母さんが降りてきた。
「……お母さん」
今にも消えそうなあたしの声に、お母さんの耳がピクリと動いた。
「莉奈……」
顔を上げたお母さんの目は、あたしを見て見開いている。
同時に恭平の方にも視線を向けて、お母さんは長い髪の毛をかきあげた。