ひまわり


「ジュースとか、気の利いたもんなかったわ」


椅子を引いてあたしの前にドカっと座り、麦茶を注ぎ始める。


その様子を、ジーっと瞬きせずに眺めていると、


「……なんだよ」


あたしの視線に気づいた彼が、コップをあたしに手渡しながら怪訝な表情を向けてきた。


「なんか、違う……。
なんか、優しい」


麦茶の入ったコップに口を付けて、あたしより少し上にある彼の目を見上げた。


「じゃ、何?
ここに放置されたいわけ?」


彼は無表情でそう言って、麦茶をがぶ飲みする。


「そういうわけじゃ……」

「じゃ、なに?」


先程と立場が一転して、今度は彼にしつこく質問される。


視線を落として考えあぐねていると、『はぁ』と大きなため息が聞こえてきた。


「なんか、ちょっとだけ、調子が狂う」


目を泳がせながら、たどたどしく答える。


「それより、家の人は?」

「いないんじゃない?」

「はっ?誰も?」

「あれだけ鍋がグツグツいってんのに誰も来なかったんだから、いないって事なんじゃないの?」


この家に誰もいないと聞いて、変な緊張感に襲われる。


そんなあたしをよそに、彼は平然な顔して麦茶を飲みほしていた。


突然、不安に包まれる。


学校を抜け出したうえに、こんなヤンキーと一緒にいることを知られたら、大人はみんななんて言うだろう。


別に世間体を気にしているわけじゃないけれど、高校生になったばかりなのに、問題児扱いされたらたまったもんじゃない。


「おまえさ、」

「はい?」


色んな思いが交差する中、彼に突然話しかけられて、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。




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