ひまわり


「ガーベラには、神秘とか希望って意味があるんだ」


顔に似合わず、意外と可愛い事を知っている彼に驚いた。


「その中でも、このオレンジの花には『我慢強さ』って、意味がある」


一旦言葉を区切り、あたしに『はい』と線香を渡してきた。


それを受け取り、彼と一緒に線香をあげる。


目を閉じ、頭を下げた。


隣の彼はしばらく頭を下げ、静に眠る両親に話しかけているようだった。


「お袋がさ、『どんな困難にぶつかっても、絶対に逃げちゃダメだ』って、いつも言ってたんだ」


ゆっくり目を開けた彼が、また静かに話し出す。


「『我慢強さが大事だ』って。『忘れそうになった時は、この花を見て思い出しなさい』って。
小さい頃からこればっかでさ、嫌でもこの花言葉覚えちまったよ」


ハハっと笑った彼だったけど、その笑顔がどこか切なく感じた。


彼の話を聞いていると、本当に両親の事が好きだったんだなって、心が締め付けられる。


どうして、こんなに優しい彼がこんなにも辛い経験をしなきゃいけないんだろう。


神様は、意地悪すぎる。



「俺、今は悲しくないよ」

「――っえ?」


思わず、素っ頓狂な声を出してしまった。


「まぁ、最初は、なんで俺だけーなんて思ってたけどさ、今はみんなに支えられてるし。
それに、優斗と美穂に元気もらってるし、結構楽しいよ」


彼は、荷物をまとめて歩き出した。



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